桜
満開の桜の木から、春風と共に一斉に花びらが舞い散る姿を見ると
必ず思い出す一節がある。
カツラの木はー
毎年無数の、累計するとおそらく日本の人口以上の数になろうかと思われる種子を落とし、
この下にたくさん発芽するのですが、
親になれるのは、そのうちせいぜい一本か二本でしょう。
植物は、そして生物は、可能性がある限り、命のトライを続ける、
きっと全て死に絶えようとする、最後の最後まで。
梨木香歩著 「水辺にて」より
一斉に舞う花びらが、植物の種子にみえて、
風と共に潔く散っていく花びらを見る度に、
今まで在った「生」の意味はどこへいって消えてしまうのだろうか、
と固執していた時期もあった。
今ではその固執が時間とともに変容され、
それらは、どこかで、何かにコネクトして、次に繋がっていってるのだろう、と思っている。
散りゆく花びらを見る度に、遥か遠い昔から、時代の環境とともに変容しながら、
連綿と続く生命力、今を生き抜く植物のダイナミズムを感じずにはいられない。
先週、満開の中でのお花見をしながら、ふと思った。
電車で・車で・都心から郊外まで、至る所に溢れるピンク色の風景。
何故、日本はこんなに桜の木が多いのか?
http://crd.ndl.go.jp/
単純に古来から散りゆく花を愛でる為受け継がれているわけではなく
都市緑化計画の一環で、街路樹として適切な種類ということで植樹されていたそう。
でなければあれだけ至る所で目につくはずもない。
今咲いているソメイヨシノは戦後に植樹されたものがほとんどなので
現在の樹齢は60年前後が平均かな。
ソメイヨシノは若木の段階から花を咲かせ
江戸末期から明治初期にかけて観賞用として重宝された事をきっかけに、
人口交配され爆発的人気を博し、現在までの国民的人気を得たという。
ソメイヨシノは全て1本の原木から人工交配(添え木、接ぎ木)したクローンで、同じ遺伝子を持つ。
だから同じ条件で一斉に咲き出し、平均寿命も60年と一緒だそう。
(これにはソメイヨシノの特性や環境も関係あるようで、メンテナンスすれば100年以上もつこともある)
街路樹で一番多いのは秋のイチョウ、
二番目は春の桜、
緑化計画に則って植樹された街路樹。
都心にいても風土からくる四季の移ろいを五感で感じ、身体感覚として、
日本人としてのアイデンティティが無意識に身についているものなのだ。
それは桜の花びらの儚さが人の一生を例えられているけれど
一瞬の力強さが色濃く刻まれ、遺ってゆき、次へと繋がっていくということ。
たとえその風景が意図的に植えつけられたものでも。
でも、
それすらも我々に受け継がれた遺伝子の一部かもしれない。